【保育の現場から】手拍子ひとつでクラスがひとつになる

Hinano
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子どもたちと保育士たちとの心温まるふれあいの日々。
忙しい日常に、ほっこりしたひと時をお届けできればうれしいです。

1歳児クラスのリズムあそびは、音より先に体が踊り出す

1歳児クラスで「リズムあそびをしよう」と言うと、こちらの準備より先に体が動き始めます。

太鼓を出す前に、手をぱちぱち。

音楽を流す前に、おしりがふりふり。

音を「聞く」というより、音に「見つかる」感じです。

その日のリズムあそびは、午前のおやつが終わって、少し眠気が近づく時間にしました。

ねむねむ顔の子もいる。

まだ遊びたい顔の子もいる。

気持ちがばらばらなときこそ、短いリズムが役に立ちます。

最初の一音で泣きそうになる子がいる

小さなタンブリンを鳴らして、私はいつもの合図を出しました。

「はじまるよ」

すると、Sくんの口がふにゃっと曲がりました。

泣く直前の、あの形です。

Sくんは音が嫌いな子ではありません。

ただ、みんなが一斉に動き出す雰囲気が苦手な日があります。

1歳児は「いつも大丈夫」がまだ安定しません。

昨日は平気でも、今日は胸がいっぱい。

そんな日が普通にあります。

私はすぐに抱っこをしませんでした。

抱っこが悪いわけではありません。

でも、抱っこしか道がなくなると、本人の足が出るタイミングを逃すことがあるからです。

私はSくんの近くに座って、音を小さくしました。

タンブリンを「じゃん」ではなく、「とん」。

そして、目の前でゆっくり手拍子をしました。

ぱち、ぱち。

間をたっぷり。

Sくんは泣かずに、こちらの手を見ました。

それだけで、今日は上出来です。

手拍子は、真似ができなくても参加できる

手拍子って、1歳児にとって不思議な遊びです。

両手を合わせるだけなのに、できる日とできない日がある。

力が入りすぎて「ぱち」ではなく「ばし」になる日もある。

手が届かずに空振りする日もある。

でも、真似ができなくても参加できるのが手拍子のいいところです。

見ているだけでも参加。

揺れているだけでも参加。

膝の上で足をとんとんしても参加。

その日、Kちゃんは手拍子ではなく、頭をゆらゆらしていました。

本人はとても真剣です。

おそらく、頭の中では大太鼓が鳴っています。

Lちゃんは、私の「ぱち」に合わせて「んっ」と声を出しました。

声の手拍子。

これも立派な参加です。

遅れてきた一人の「ぱち」が、空気を変える

しばらくすると、Sくんの両手が、胸の前でそろそろ動き始めました。

まだ合わせない。

合わせないけれど、片方の手がもう片方の手を探している。

私はあえて待ちました。

「できた?」と聞きません。

「やってみよう」とも言いません。

1歳児の集中を邪魔しないための、沈黙です。

そして、Sくんの手が、ついに合わさりました。

ぱち。

小さくて、ちょっと遅れて。

でも確かな一音。

その瞬間、周りの子が振り向きました。

子どもは、誰が「初めてできた」かに敏感です。

まるで「今の、聞こえた?」と言い合うみたいに、目がきらきらしました。

私は大げさに褒めず、ただ笑いました。

笑うと、クラスの空気がふわっと軽くなります。

それにつられて、誰かが声を出して笑い、次の子がぱちぱちを増やす。

リズムは、こうやって伝染します。

「できる子」が先生になる瞬間

ここで、いつも手拍子が得意なMくんが立ち上がりました。

得意な子が立ち上がると、空気がまた変わります。

リーダーが出る。

Mくんは私の真似をするのではなく、勝手に新しいリズムを作り始めました。

ぱち、ぱち、ぱち。

間。

ぱち。

私は心の中で「増えたな」と思いながら、ついていきました。

すると、Kちゃんの頭ゆらゆらが、そのリズムに合ってきました。

Lちゃんの「んっ」も、間のところで入る。

Sくんは、遅れながらも両手を合わせ続ける。

気づけば、クラス全体がひとつの波になっていました。

1歳児クラスで、こういう瞬間が来ると、胸の奥がじんわりします。

まだ言葉で「一緒にしよう」と言えない年齢が、体で「一緒」を作るからです。

お迎えのときの「家では固いんです」に思うこと

お迎えでSくんのお母さんが言いました。

「最近、家だと急に泣くことが増えて。音の遊びも、やらないって首を振るんです」

私は今日のSくんの「ぱち」を、そのまま返しました。

「今日は最初、泣きそうな顔でした。でも、音を小さくしたら見ていられて、最後は自分で手を合わせていましたよ」

お母さんはほっとした顔で、何度もうなずきました。

「園だとできるんですね」

その言葉には、安心と、少しの不思議が混ざっています。

園と家庭で姿が違うのは、よくあることです。

場所の安心感、周りの人数、活動の流れ。

全部が違う。

でも、どちらもその子です。

私はそういうとき、できた/できないより、「今日はどう動けたか」を大事にして伝えるようにしています。

まとめ

1歳児クラスのリズムあそびは、上手にそろえることが目的ではありません。

音が怖い日もある。

気持ちが追いつかない日もある。

それでも、誰かの小さな「ぱち」が出ると、クラスがふわっとつながります。

手拍子は、真似できなくても参加できる遊びです。

見ているだけでも、揺れているだけでも、声でも、足でもいい。

その自由さが、1歳児の「一緒」を支えてくれます。

今日のSくんの「ぱち」は、小さくて遅れていました。

でも、あの一音が出た瞬間、部屋の空気が変わりました。

リズムあそびのいちばんのごほうびは、きっとあの瞬間の「つながった感じ」なのだと、改めて思った1日でした。

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