【保育の現場から】指でつながるお散歩の「手」は小さなプライド

Hinano
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子どもたちと保育士たちとの心温まるふれあいの日々。
忙しい日常に、ほっこりしたひと時をお届けできればうれしいです。

保育園のお散歩は、道の上の小さな社会

お散歩に出かける朝は、子どもたちの空気が違います。

帽子をかぶる動きが早い。

靴下の直し方が雑になる。

水筒のひもを首にかけながら、もう外の匂いを吸いにいく顔。

子どもたちは、出かける前から頭の中で目的地に着いてしまうことがあります。(笑)

保育園のお散歩は、自然に触れる時間であると同時に、道の上の小さな社会でもあります。

列の並び方、歩く速さ、信号の待ち方、前の子との距離。

安全を守るための決まりごとがたくさんあるのに、子どもたちはその中で「自分らしさ」もちゃんと試したくなる。

だから、毎回ちょっとした事件が起きます。

「今日は手、つながない」宣言をしたGくん

この日の事件の主役は、年長のGくんでした。

出発前の整列で、私がいつものように声をかけたときです。

「じゃあ二人組で手をつなごうね」

Gくんは、すっと手を背中に回して言いました。

「きょうは、て、つながない」

その言い方がまた、堂々としていて。

反抗というより、「決めた」という顔。周りの子が「え?」と振り返るくらいの存在感でした。

理由を聞くと、Gくんは少し眉を寄せて答えました。

「だって、ぼく、もうおおきいもん」

大きい。

その一言に、年長さんの背伸びが詰まっています。

安全の話をするときほど、説教にしない

お散歩で手をつなぐのは、安全のためです。

車道が近い場所、段差、自転車、曲がり角。

危ない場面が一つでもあれば、つないだ手が命綱になります。

だから大人は言いたくなるのです。

「危ないから」

「決まりだから」

「大きい子は小さい子のお手本にならないといけない」

でも、Gくんの「大きいもん」は、ただのわがままではありません。

“自分でできる”を試したい気持ちです。

ここに真正面から「ダメ」をぶつけると、Gくんの自立心ごと押しつぶしてしまうことがあります。

私は、説教ではなく、選択肢を出すことにしました。

「そっか。大きいから、自分で歩きたいんだね」

「じゃあ、今日は“手をつなぐ”じゃなくて、“指でつながる”はどう?」

私は人差し指を一本出しました。

子ども同士が指一本だけを軽く引っかける、あの方法です。

「指でつながる」は、年長のプライドを守る

Gくんは一瞬考えて、隣のHくんを見ました。

Hくんも、年長らしく少し照れた顔。

二人は、指先だけをちょん、とつなぎました。

ぎゅっと握る手よりも、頼りない。

でも、列の距離は保てる。

何より、Gくんの「大きいもん」が守られます。

出発して数分、Gくんは少し得意げでした。

歩幅を合わせ、周りを見て、信号の前で止まる。

「大きい」って、こういうことだよね、と背中が言っています。

公園で起きた「いちばん大きい問題」

目的地の公園に着くと、子どもたちは一気に解放されます。

ただし、解放されても、約束はあります。

その日、すべり台の順番で小さなもめごとが起きました。

年中の子が先に並んでいたのに、後ろから来た年長の子が割り込みそうになったのです。

私は遠目で様子を見ながら、少し待ちました。

年長のGくんが、そこでどう動くか見たかったからです。

するとGくんは、割り込みそうになった子に声をかけました。

「いま、ならんでるよ」

「ぬかしちゃだめ」

言い方は少し硬いけれど、内容はまっすぐ。

年中の子はほっとして、列が整いました。

私はその場で「えらいね」とは言いませんでした。

代わりに、公園を出る前にGくんにだけ小声で伝えました。

「さっきの、よく見てたね。大きい子の目だったよ」

Gくんは、ふっと口元をゆるめました。

“手をつながない”から始まった日が、“大きい”の意味を確かめる日になっていました。

お迎えで聞いた、保護者の「実は心配」

お迎えのとき、Gくんのお母さんがぽつりと言いました。

「最近、何でも一人でやりたがって…。成長は嬉しいんですけど、外だと心配で」

その言葉を聞いて、私は今日の“指つなぎ”を思い出しました。

子どもの自立心と、保護者の心配は、いつもセットです。

どちらも正しい。

だから難しい。

私は、今日のやり取りをそのまま伝えました。

「手はつながないって言っていたんです。でも指なら、って提案したら受け入れてくれて」

「Gくん、ちゃんと周りを見て歩けていましたよ」

お母さんは、少し安心したように笑いました。

「指…それ、いいですね」

まとめ

お散歩の「手をつなぐ」は、安全のための大事な約束です。

でも、その手の中には、子どもの自立心や誇り、そして保護者の見えない心配も一緒に入っています。

“つなぐか、つながないか”の二択ではなく、指先一つの折り合いでも、子どもは前に進めます。

今日のGくんは、手をぎゅっと握らなくても、ちゃんと「大きい」を練習していました。

明日また同じことが起きるかもしれません。

それでも、お散歩の道の上でつながれたものは、手だけではありません。

子どもが自分を確かめる時間として、お散歩はいつも新鮮で、ちょっと愉快です。

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