【保育の現場から】0歳児「あー」と「んー」で、ちゃんと会話している

Hinano
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子どもたちと保育士たちとの心温まるふれあいの日々。
忙しい日常に、ほっこりしたひと時をお届けできればうれしいです。

0歳児コミュニケーションは、言葉より先に“空気”が届く

0歳児クラスの朝は、静かなのににぎやかです。

泣き声や笑い声はもちろんあるのですが、それよりも、まなざしの行き来が忙しいのです

「今、見たよね?」という目。

「それ、気になってるよね?」という目。

言葉がまだ整っていないぶん、視線と表情と息づかいが、会話の全部を担っています。

この日は、10か月くらいのIちゃんが、登園してすぐ私の前でぴたっと止まりました。

抱っこを求めるときの手の伸び方とも違う。

おもちゃに向かうときの前のめりとも違う。

ただ、私の顔を見上げて、口を少し開けて、待っている。

「あー」はお願いで、「んー」は相談

Iちゃんは、私のエプロンのボタンのあたりをじっと見ました。

そして小さく、「あー」。

私は思わず笑いそうになります。

0歳児の「あー」は、音としては同じでも、意味が毎回違うからです。

「これが気になるの?」と私がボタンを指でつまむと、Iちゃんは目を細めて、もう一度「あー」。

今度は少し長い。

私は「そうか、触りたいんだね」と、ボタンを触れる位置までIちゃんを近づけました。

Iちゃんの指が、ボタンにちょん。

触れた瞬間、Iちゃんの口がきゅっと結ばれて、「んー」。

この「んー」がまた、いいのです。

成功の声でも、失敗の声でもなく、たぶん相談の声です。

「触れたけど、次どうする?」という顔。

私はゆっくりうなずきました。

「もう一回、ちょん、してみる?」

Iちゃんは、指をもう一度伸ばして、今度は爪でひっかくようにボタンを確かめました。

そして、短く「んっ」。

すごく小さいのに、確信のある声でした。

周りの子も、会話の輪に入ってくる

Iちゃんがボタンに夢中になっていると、近くで遊んでいたJくん(同じくらいの月齢)が、ずりばいで寄ってきました。

Jくんは、Iちゃんの指先とボタンを交互に見て、私の顔を見ました。

そして、やや強めの「あっ!」。

私はこの「あっ!」を、質問だと受け取りました。

「Jくんも、見たい?」

そう声をかけて、エプロンを少しだけ前に出すと、Jくんの手が伸びます。

Iちゃんは一瞬、眉をひそめました。

0歳児の眉のひそめ方は、ものすごく正直です。

「それ、わたしの今の楽しみなんだけど」という顔。

私は、二人の間に小さな橋を作るように言いました。

「Iちゃんがちょんってしたら、次はJくんね」

もちろん、順番という概念が完璧に分かる月齢ではありません。

でも、こちらが“順番の形”を置くことで、二人の気持ちがぶつかりにくくなることがあります。

Iちゃんは、もう一度ちょん、と触りました。

そのあと、ほんの一瞬だけ手を引きました。

Jくんがすかさず触ります。

二人とも、声は出さないのに、目だけで忙しく会話していました。

保護者の「通じていますか?」に、私は今日の話を返す

午後、お迎えのとき。

Iちゃんのお母さんが、よくある質問をしました。

「家だと、何を求めてるのか分からないことが多くて。ちゃんと通じてるのかなって不安になります」

私は、今日のボタンの話を、そのまま短くお伝えしました。

「朝、Iちゃん、私のボタンを見て『あー』って言ったんです。触れていい?って相談してるみたいで。触ったあとに『んー』って、次どうする?って顔をしてましたよ」

お母さんは目を丸くして、すぐに笑いました。

「そんなふうに見たらいいんですね」

私は、励ますための結論を急がないように気をつけながら、ひとことだけ足しました。

「Iちゃん、ちゃんと会話してます。言葉じゃなくて、目と声の高さで」

まとめ

0歳児のコミュニケーションは、単語よりも先に、気持ちのキャッチボールが育っていく時期です。

「あー」や「んー」は、ただの発声ではなく、相手に届くように選ばれた音です。

こちらがその音(声)を“返して”いくと、赤ちゃんは「通じる」を確かめるように、表情を変えてくれます。

今日、Iちゃんはボタンを触っただけかもしれません。

でも、その前後には、立派な会話がありました。

見つける、伝える、待つ、確かめる。

0歳児の一日は、そういう小さな往復でできています。

その往復が積み重なるほど、言葉が出る前から、もう十分に“通じ合う”のだと感じた朝でした。

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