【保育の現場から】2歳児の「もういっかい」は、魔法の合図
子どもたちと保育士たちとの心温まるふれあいの日々。
忙しい日常に、ほっこりしたひと時をお届けできればうれしいです。
2歳児クラスの読み聞かせは、静けさより“気配”を読む
2歳児クラスの絵本読み聞かせは、いわゆる「しーん」とした図書館のような時間にはなりません。
ページがめくれる音より先に、誰かのくしゃみが飛び出し、座っていたはずの子がいつの間にか私の膝に乗り、絵本の登場人物に向かって「おーい」と手を振る。
そのにぎやかさは、集中していない証拠ではなく、世界に入っている証拠です。
2歳児の集中は“静止”ではなく、“参加”として表に出ることが多い。
だから私は、読み聞かせの時間になると、声のトーンよりもまず、部屋の気配を整えるところから始めます。
この日の読み聞かせも、そんな“気配”から始まりました。
「読む前」から、すでに絵本は始まっている
お昼寝前の少し落ち着く時間。
カーテンを少し閉めて、照明をやわらかくして、子どもたちが好きな場所に座るのを待ちます。
2歳児クラスのMちゃんは、絵本の時間が大好きです。
でも好きの出し方が、いつも全力。
絵本を私のところへ運びながら、途中で落としそうになっては「あっ!」、落とさないと決めた顔で抱え直して「よいしょ!」。
その日は、少し厚めの絵本を両手で抱えてきて、私の前にどん、と置きました。
そして、私の顔を見上げて言いました。
「せんせ、これ」
言葉は短いのに、目が長文。
「これを、今、すぐ、読んで」という圧が、2歳児らしくまっすぐです。
ページをめくりたい手は、物語に入りたい手
読み始めると、Mちゃんは私の隣にぴたっと座り、右手を絵本の端にそっと添えました。
ページをめくる準備です。
2歳児は、「見たい」だけでなく「やりたい」も同時に動きます。
ページをめくる行為は、邪魔ではなく参加。
けれど、参加が勢い余って、数ページ一気に飛ばされることもある。
案の定、その日もMちゃんの指がうずうずして、物語が盛り上がりそうな場面で、ぱらぱらっと先に進みそうになりました。
私は慌てて止めるのではなく、声をひそめて提案しました。
「Mちゃん、めくるの、いっしょにしようか。せーの、で」
「せーの」という言葉は、2歳児にとって小さな安心の合図です。
同じタイミングで動ける、失敗しても大丈夫、という合図。
Mちゃんは少しだけ口を尖らせながらも、私の指先を見て待ちました。
「せーの」
ぺらり。
その瞬間、Mちゃんの顔がぱっと明るくなりました。
ページがめくれたことより、「いっしょ」が嬉しい。そんな表情です。
途中で立ち上がったNくんが、突然“いいこと”を言った
読み聞かせ中、2歳児がずっと座っていることは稀です。
Nくんも途中で立ち上がり、部屋の端のぬいぐるみを抱えて戻ってきました。
私は読み続けました。
止めない。叱らない。戻ってきたくなる余白を残す。
するとNくんは、ぬいぐるみを抱えたまま、絵本の登場人物が転んだ場面で、ぽつりと言ったのです。
「いたい、いたい」
そして、ぬいぐるみの頭をなでなでしながら、続けました。
「だいじょぶ」
その言葉は、絵本の中の登場人物に向けた言葉であり、ぬいぐるみに向けた言葉であり、もしかすると自分自身にも向けた言葉でした。
2歳児の「だいじょぶ」は、まだ呪文みたいに短いけれど、確かに人を包む力があります。
周りの子もつられて小さな声で言います。
「だいじょぶ」
「よしよし」
読み聞かせの輪の中に、静かなやさしさが広がりました。
クライマックスより盛り上がる「もういっかい」
読み終わると、私は表紙を見せながら、いつも通りに締めました。
「おしまい」
すると、間髪入れずにMちゃんが言いました。
「もっかい!」
それに続いて、あちこちから声が上がります。
「もっかい!」
「もーっかい!!」
2歳児クラスの「もういっかい」は、お願いというより、再生ボタンです。
大人が「もう一回?」と確認するより早く、子どもたちはすでに次の周回に入っています。
私は笑いをこらえながら、同じ絵本をもう一度開きました。
すると二回目は、Nくんが転ぶ場面を覚えていて、先回りして言いました。
「だいじょぶ、する」
“する”って言い方が、またいいのです。
優しさを「するもの」として理解している。
2歳児の言葉は未完成だけれど、心の動きは驚くほど的確です。
お迎えのとき、保護者に伝えたくなる「ちいさな成長」
お迎えに来たNくんのお父さんに、私は今日の一言を伝えました。
「絵本で転んだ子が出てきたとき、Nくんが“だいじょぶ”って言ってくれたんですよ」
お父さんは少し驚いて、すぐに笑いました。
「家だと、僕が転ぶと笑うんですけどね」
それもまた、2歳児らしい。
笑うのは悪意ではなく、びっくりの表現だったり、気まずさの逃げ道だったりします。
でも園で「だいじょぶ」が出たのは、きっとNくんの中に“安心して言える空気”があったからです。
まとめ
2歳児クラスの絵本読み聞かせは、気持ちが行ったり来たりしながら物語に触れる大切な時間です。
ページをめくりたい手も、途中で立ち上がる足も、「もういっかい」の合唱も、全部が参加型。
そして、絵本の中の「いたい」に「だいじょぶ」と返せたとき、子どもの心には小さな毛布みたいな温かさが残ります。
明日もきっと、別の絵本で、別の「もういっかい」が起きるでしょう。
そのたびに私は思うのです。2歳児の「もういっかい」は、物語を繰り返したいだけじゃなく、安心をもう一度確かめたい合図なのだと。